「笹飾り」は季語?七夕と同じく秋の季語?なんで夏の季語じゃない?

笹飾り 季語

7月7日は、待ちに待った七夕。

古くから伝わる年中行事の1つで、桃の節句や端午の節句と並ぶ五大節句の1つに数えられています。

七夕(しちせき、7月7日の夜の意味)と書いて“たなばた”と呼ぶのは、棚機津女(たなばたつめ)という伝説に準じた当て字だからです。

禊ぎの行事の際、神棚に供えるために、機織の乙女である棚機津女が機(はた)で布を織ったのが由来とされます。

更には、有名な織姫と彦星の逢瀬の物語に加え、奈良時代から続く乞巧奠(きこうでん)の儀式で知られ、棚機津女にあやかって裁縫の上達を願うのが習わしでした。

この習わしが、願い事をしたためた短冊を笹の葉に飾りつける「笹飾り」へと発展し、現代に継承されています。

七夕にちなんだ俳句を詠む場合に「笹飾り」は最適な季語の1つです。

ただ、覚えておきたいのは、季節は秋だということ。

7月の行事なのにどうして「笹飾り」や「七夕」は夏の季語でないのか、その訳は、明治以前は旧暦に基づいて年中行事を執り行っていたからです。

太陽の動きをベースとした旧暦では、毎年の月日が微妙に変化します。

旧暦で数えた場合、2021年の7月7日は8月14日となり、現在のカレンダーとは約1か月もの開きが・・・

しかも旧暦では7~9月を秋と見なすため、七夕に関する季語も秋となります。

新暦を使う現代でのデメリットは、七夕の時期は梅雨が開けていないことが多く、雨で天の川が見られない点です。

一方で、月明りによっても天の川の輝きは左右され、新暦2021年の七夕は月齢27という下弦後の薄い三日月のため、晴天であれば天の川が見えやすい状況となっています。

七夕の俳句で有名な句はどんなものがある?名だたる俳人が作ってる!

七夕 俳句 有名

織姫と彦星が1年に一度だけの再会を許される七夕の夜。

伝説のロマンスに魅了され、天の川が輝く夜空の美しさに思いを馳せる人は少なくありません。

そのせいか、七夕にちなんだ天空ロマンを詠んだ俳句は無数にあります。

名だたる俳人による美しい俳句の数々を是非鑑賞してみましょう。

まずは江戸時代の三大俳諧師の作品をピックアップ。

七夕の遭わぬ心や雨中天

雨の七夕では増水した天の川が逢瀬の妨げになると思いやる、松尾芭蕉の句です。

2人が再会できれば“有頂天”だったのにという憂いを、悪天候の“雨中天”にかけているのが機知に富んでいます。

小林一茶

涼しさは七夕竹の夜露かな
うつくしや障子の穴の天の川

と詠み、七夕の幻想的な情景をストレートに描写しています。

少し趣の異なる、

恋さまざま願いの糸も白きより

は、与謝蕪村によるもの。

「願いの糸」が七夕を意味する秋の季語で、裁縫の上達を願い、糸束を竹竿に飾っていた古来の七夕の風習が反映されています。

明治を代表する俳人の正岡子規にとっても、七夕は創作のアイデアを沢山与えたようです。

うれしさや七夕竹の中をゆく
天の川高燈籠にかかりけり
よもすがら鳥もさわげ星祭

など七夕に心踊る子規の高揚感が伝わってきます。

七夕の別名でもある「星祭」は七夕の子季語で、他にも「星合」「星迎え」「星の恋」「星の契」など七夕に関連した美しい季語の数々には大注目です。

近代の誇る文豪である夏目漱石による

別るるや夢一筋の天の川
晴明の頭の上や星の恋

は、まるで恋愛小説を読んでいるかのよう。

国立天文台によれば、織姫と彦星に例えられる星(こと座のベガとわし座のアルタイル)は、天の川を挟んで14.4光年も離れているそうです。

光の速さでも14年半かかってしまう大きなギャップに、2人の想いが成就するように願わずにはいられません。

「短冊」は季語ではない!使いたいなら「短冊竹」を使いましょう!

短冊 季語

色とりどりの短冊を付けた笹の葉が、初夏の風に揺れる七夕。

今年の願い事はお決まりでしょうか?

元来は、織姫という名前から想像できるように、彼女の職業が機織りであったことから、裁縫や手芸の上達を願うのが常でした。

そこから解釈が広がって、今では習い事の上達や学力の向上、健康や安全を祈願します。

万物は5種類から成るとする五行説に従い、短冊も赤・黄・白・黒・緑の5色が基本です。

七夕ではよく目にするので「短冊」を季語として俳句を詠みたいところですが、実は季語にはなり得ません。

「短冊」だけでは季節が特定できないうえ、短歌や俳句を書く細長い紙片を連想させ、必ずしも七夕や笹飾りを意味しないため季語としては不十分なのです。

しかし、ご安心を。

その代わりとして使える秋の季語「短冊竹」(たんざくだけ)が存在します。

短冊を飾るのは笹の葉であるはずなのに、どうして竹?という疑問はもっともで、かつての七夕での慣習によるものです。

平安時代には家紋マークでお馴染みの梶の葉っぱに願いを書き込んでいましたが、江戸時代に入ると短冊を下げた葉竹が屋根を越えるほどの高さに掲げられるようになります。

力強く天高く伸びる竹は、清らかで縁起が良く、厄払いの神事には欠かせませんでしたが、近代以降は軒下に飾るのに丁度良い小振りな笹が、短冊飾りとして定着しました。

「短冊竹」以外にも、短冊とほぼ同意の「七夕色紙」(たなばたしきし、秋の季語)もしくは「七夕紙」(たなばたがみ、秋の季語)を用いるのもおススメです。

まとめ

“笹の葉さ~らさら、軒端にゆれる~”との童謡「たなばたさま」でお馴染みの七夕。

俳句の題材には事欠かない年中行事の1つです。

織姫と彦星の再会に思いを馳せながら、願い事を書いた短冊を笹に飾りますが、「笹飾り」は夏ではなく、秋の季語

かつては旧暦に基づいて節句が行われ、7月7日の七夕は秋と見なされていたためです。

七夕の天空ロマンに魅せられた歴代の俳人達による美しい俳句の数々を、是非とも鑑賞してみましょう。

また「笹飾り」に使う「短冊」は、単独では季節が明確でないため、季語ではありません

代わりに「短冊竹」や「七夕色紙」の活用をお勧めします。